序論
このエッセイは、近年私達の生活に必要不可欠になっているIT領域の中で、2021年頃からバズワードとして注目され、社会やビジネスに影響を与える可能性のあるとされている、Webにおける新たな概念であるWeb3.0についてである。これからの実世界での応用に向けて、Web3.0の特徴を捉える。エッセイの流れとしては、まず、Web3.0に至るまでのWebの歴史をたどり、Web3.0ムーブメントや技術革新が起こった背景を掴む。次に、Web3.0の基盤概念や技術、ユースケースの中で主要なものを挙げ、定義・仕組み・強み・弱み・現状等の観点から考察し特徴を掴む。最後に、特徴を踏まえ、ビジネス・社会領域にどのように応用できるか考える。発展が見込まれ、NFT、ブロックチェーンといった言葉に関連して耳にすることが増えたWeb3.0の革新性は何で、社会実装できるのだろうか。
本研究の背景
近年、多くのビジネス領域でデジタル活用の重要性が説かれ、実行されている。特に、行動経済成長期に大きく経済力をつけた、リアル世界での産業に強い日本は、アメリカや中国などの先進国に比べてデジタル産業では先を越された。スイスのビジネススクールである国際経営開発研究所の世界競争力センターでは、毎年デジタル技術を実社会においてどれだけ活用しているか、人材、資本、規制などの観点から国や地域ごとに調査している。ランキングでは1位米国、2位オランダ、3位シンガポールであり、香港、台湾、韓国などの、近隣諸国も10位以内にランクインしている。その中日本は、2023年のデータにおいて、2017年の調査開始以来過去最低となる32位である。そのため、DXがとても重要と言われており、多くの企業がビッグデータ・AI等の技術を用いた業務自動化、組織改革、価値創出に取り組んでいる。また、自明なことであるが社会においても、デジタル技術は私達の生活に深く入り込み、一日の大半をデジタル空間で過ごすこともある。実際、私自身の生活を見てみても、デジタル産業にどれだけ浸かっているかがわかる。具体的には、SNSやテレビ会議ツールを使ってコミュニケーションを取ることが増え、大学の授業もハイブリッド型授業などデジタル技術を駆使して行われるようになり、授業の初めから終わりまですべてがリアル空間を介さず、デジタル空間上で完結することもある。娯楽面でも、オンラインゲームやNetflixやユーチューブ等のストリーミングサービスに多くの時間を使っている。
このデジタル時代の中で、これまでのインターネット・デジタルをWeb2.0ととらえ、ブロックチェーンを核とした技術領域をWeb3.0と呼び、発展性を予見する意見がある。だが、Web3.0はNFT、暗号資産との結びつきがあることや、実態が捉えにくいことから、正確に何なのかということがあまりわからない。実際電通が2023年に行った「web3に関する生活者意識調査」において、全国15~69歳の生活者3000人に対し「web3について、あなたにあてはまるものをお知らせください」という質問に対し「名前や特徴までよく知っている」2.3%、「名前や特徴をある程度知っている」6.2%、「名前だけは知っている」。21.2%、「まったく知らない」70.3%となり、認知率は29.7%で、その中でもよく知っている人は8.5%である。しかし、私は、IT領域に対しとても興味を持った。そこで、Web3.0に至るまでのインターネットの歴史、現状、未来を、マクロ視点では幸福と経済への貢献の手段のとしてまとめ、自分自身のミクロな視点ではこのWeb3.0技術を使って何をすることができるのかということを研究したい。
本研究の目的・意義
目的は、Web3.0の前提・背景・実態をつかみ、社会・ビジネスにどのように影響を与える可能性があるのかを整理することで、就職後の企業でどのようにWeb3.0を使うことができるかを理解したい。また一個人として、Web3.0技術を使って何ができるのかということも検討したい。意義としては、繰り返しになるがビジネス・社会生活はIT領域と密接不可分に結びついており、今後発展が予測されるWeb3.0についての理解度を高めることは、デジタル社会生きる私達にとって重要であることが挙げられる。
本論
過去
このパートでは、Webの発展の歴史を概観し、各Webの主要な特徴について述べる。その後Web1.0、Web2.0、Web3.0の詳細な歴史や特徴についてまとめ、各Webのつながりを理解する。そのことにより、Web3.0が出現した歴史的背景を知ることを目的とする。
Webの発展の歴史
まず、Webの発展の歴史について概観をまとめる。年表でまとめると以下のようになる。
年表a:Web発展の歴史の概観
Web1.0
1989年:Tim Berners-Leeが、ウェブ・wwwを発明
Web2.0
2005年:オライリーメディア創設者Tim O’Reillyが、「What is Web2.0 Design Patterns and Business Models For the Next Generation of Software」という論文で「Web2.0」を提唱
Web3.0
2014年:イーサリアム創設者Gavin Woodが、「Dapps: What Web 3.0 Looks Like」で「Web3.0」を提唱
2021年:世界的にWeb3がバズワードに
年表にある通り、1989年にTim Berners-Leeがウェブ・wwwを開発し、Webの黎明期であるWeb1.0が始まった。このウェブは使いやすいものではなく、基本文字情報のみで、情報の方向は一方通行的であった。その後、2005年にオライリーメディア創設者Tim O’ReillyがWeb2.0を提唱。ブログやウィキペディア、SNSなどインタラクティブなウェブが構築されていった。具体的には、ブログやウィキペディアではユーザーもウェブに何かを書き込むことができるようになり、SNSでは個人が情報発信を行えるようになった。これは「read」だけしかできなかった状態から「write」になったと言うことができる。2014年にはイーサリアム創設者のGavin WoodがWeb3.0の必要性を提唱した。Web3.0とは各個人のコンピューター同士がつながりインターネットが構築されるため、「own」することができるようになったと言うことができる。
この年表をよく見ると、1990年頃から2004年頃までをWeb1.0、2005年から2020年頃までをWeb2.0、2021年以降をWeb3.0の時代と捉えることができ、15年スパンで大きな波が来ていることがわかる。そのため、仮にこの法則に則るのであれば、Web3.0は今後15年間を形作る重要なトピックになるだろう。
Web1.0の歴史
次にWeb1.0の歴史について述べる。年表は以下の通りである。
年表b:Web1.0の発展の歴史
1969年:ARPA(Advanced Research Projects Agency:米国国防高騰研究計画局)が軍事・研究目的にインターネットの始祖と言われるARPANETを開発
1989年:CERN(Conseil European pour la Recherche Nucleaire:欧州原子核研究機構)において、 Tim Berners-Lee がwwwを開発
1990年:米国での商業利用許可
1993年:米国イリノイ大学のNCSA(National center for Supercomputing Applications:国立スーパーコンピュータ応用研究所)が「Mosaic(モザイク)」というウェブブラウザを開発
1995年:MicrosoftがWindows95を発売
インターネットの起源は軍事・研究目的であったと言われており、ARPAがARPANETを開発したことである。これは、大型コンピューターを離れた研究者も利用できるようにするため作られたものであり、今のWebの基盤となる技術であるパケット通信方式・IP・ルーティング・TCPの原型となる技術を用いていたとされている。次に、CERNでTim Berners-Lee がwwwを開発した。CERNはスイスにある素粒子物理学の一大研究所であり、膨大な実験データが集まっているため、当時はどのようにデータをつなぐかが、課題だった。そこで文書同士をリンクさせる仕組みを作ったのがwwwで、今のHTMLのハイパーテキストの部分を作った。文書が蜘蛛の巣のように広がるという言う意味を込めて「World Wide Web」、略してwwwと名付けられた。ここまでの研究所での出来事は画期的である一方で、インターネットの利用は政府機関や研究機関に制限されていたことや、情報の多くが文字情報かつ専門知識が必要だったことから、限られた人間しかウェブを使えないことが課題だった。しかし、その後の出来事によって、個人でのインターネット利用が盛んになっていく。まず、1990年の米国でインターネット商業利用が許可された。また、NCSAのウェブブラウザ開発によるマルチメディアの閲覧可能なモザイクの開発、MicrosoftのWindows95発売などの出来事がおこり、インターネットの個人利用が進んでいった。しかし、情報が一方通行的であること、言い換えれば「read」しかできないことは課題として残った。
Web2.0の歴史
Web2.0ではその課題を解決するようにコンテンツをユーザー自身が提供になるようになり、「write」が可能になった。この時代をWeb2.0の前期と捉えることができる。更には、ユーザー自身が作ったコンテンツを巨大サービス事業が運用するようになり、コンテンツをつくるクリエイターはもちろんだが、管理するプラットフォーム企業が大きな利益を得るようになった。これを後期と捉えることができる。具体例としては以下の年表が示すとおりである。
年表c:Web2.0発展の歴史
2000年:ブログの普及
2001年::Wikipedia発足
2005年以降:SNSサービスの登場(Twitter、Facebook、Instagram、YouTube、Linktin)
2005年以降:SNSと連動してGAFA、BATHなどのインターネットに強い影響力を持つ1兆ドル企業の誕生
この巨大テック企業の登場はユーザーに大きな利益をもたらした一方で、いくつかの弊害もあり、テック企業に情報、富、権力が集中していることへの、批判を呼び起こした。具体的には、弊害は社会生活・経済・IT業界での3種類に分けることができる。社会生活では、私達はパワーポイント、ワード、エクセルなどのOffice製品を日常的に使って仕事をしたり、Appleの作ったiPhoneでコミュニケーションをしたり、Amazonで買い物をしたりしている。また、Googleが管理するYouTubeや、Facebookが管理するInstagramにも多くの時間を使っている。まとめれば、巨大テック企業が提供するサービスは、ビジネス商品というよりかは、生活を支えるインフラストラクチャのように見える。そのインフラを数少ない企業に依存するのは、障害等のリスクを考えると危ういということができる。
経済の観点から述べれば、2020年にGAFAMの時価総額合計が560兆円になり、日本の東証一部約2170社の合計を抜き、巨大テック企業がどれだけの影響力を持っているかが明らかとなった。格差社会という観点においても、2014年のデータになるが、OECDにより加盟国の所得格差が過去30年間で過去最大になっているというデータが発表された。また、この所得格差の拡大は1%の超富裕層の牽引と低所得世帯の置き去りによって生まれており、原因は社会的背景の貧しい人々への教育に対し十分な投資をしないからだとされている。2021年にはトマ・ピケティが運営する世界不平等研究所が、世界の上位1%の超富裕層が世界全体の個人資産の37.8%を保有し、下位50%の人々の資産は全体の2.0%しかないことがわかっている。上位10%が全体の所得に占める割合は、最も多い地域が中等・北アフリカで58%、最も小さい地域が欧州で36%だった。日本は44.9で、報告書では「欧州程ではないが非常に不平等だ」と指摘された。具体的な日本の格差社会のデータを見てみると、格差をはかる一つの指標である「ジニ係数」では正規・非正規雇用の文化により格差が生じており、2001年から上昇傾向にある。関連指標を述べれば、日本はSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が発表する世界幸福度ランキングでも、137カ国中47位となっていて、G7加盟国の中で最低である。これらのデータは、権力を持つ事業体に批判がもたらされる、十分な根拠として考えられるだろう。
IT業界の話で言えば、アプリ開発をした際にアップルとグーグルはアプリストアにおいて、自社の決済システムを使うことを義務付ける、という独裁的な手法が目立ち始めている。しかし、多くの開発者がアップルやグーグルが用意した決済システムでは手数料が高いと感じ、専門家もこのことを疑問視している。そのため、2022年の2月にはアメリカでグーグルとアップルのアプリストアを規制する法律が上院を通過し、利用する決済システムの義務付けが禁止されることになった。
Web3.0の歴史
これまでに述べたようなWeb2.0の課題を受け、カウンターとして生まれたのがWeb3.0である。歴史的な経緯から、重視されている思想は、プラットフォームによる中抜きを削除しダイレクトにつながること、権力、富の集中を緩和するための分散化・民主化、信頼しなくても済むような仕組みを作るトラストレスが挙げられる。トラストレスという概念は、人々は国や大企業などの権威に基づくシステムへの無条件への信頼への批判に基づいている。これまでのWeb2.0の世界観は権威主義への延長上にあったと捉えることができる。しかし、ジョン・アクトンの「権力は腐敗する、絶対的な権力は絶対に腐敗する」という言葉の通り、権威があるから正しいという思い込みは権力の集中や暴走を招く恐れがある。そのため、カウンターとして生まれたのがトラストレスという概念で、信頼は控えめに、もっと真実をという思想である。Web3.0の詳細な概念は現状のパートでまとめるが、歴史的に重要なものとしては以下のものが挙げられる。
年表d:Web3.0の発展の歴史
2008年:サトシ・ナカモトがBitcoinを発明
2015年:Ethereumの登場を皮切りに、巨大テック企業へのカウンターに
2021年:NFTを介し、テック業界でバズワードに
特に2021年にNFTが世界でブレークした理由としてはいくつか理由が考えることができる。1つ目はBeepleというデジタルアートが約75億円で落札されたことで、NFTに関心が高まった。また、これまでブロックチェーン、仮想通貨が目に見えにくいものだったのがNFTという目に見えるものにかわったということも大きな理由として考えられる。
現在
このパートでは、Web3.0の近年の動向をまとめる。まず、Web3.0の定義を試みた後、理想が先行しがちなWeb3.0の概念を批判的にまとめる。以上より特徴を抽出し、未来での社会実装の可能性を考える
Web3.0の定義
まず、Web3.0の定義である。結論としては、当該分野は依然として黎明期であり、多様な当事者が自己流の定義を試みているのが現状である。実際イーサリアムのユニークアドレスは世界約2億人で、世界人口の約2.5%にすぎない。また理論や技術はあるものの成功した事例が未だ少なく、定義が固まっていなくても不思議ではない。しかし冒頭述べたような多様な当事者がweb3.0の定義を試みているため、参考のため以下に著名な機関や人物の評価をまとめる。
Ethereum・Parity Technologies創設者のGavin Woodは「Web3はブロックチェーンをベースとし、従来の中央集権ではなく、分散型のWeb」とまとめている。経済産業省は「ブロックチェーン上で、暗号資産等のトークンを媒体として「価値の共創・保有・交換」を行う経済」とし、総務省は「Web3では、ブロックチェーンを基盤とする分散化されたネットワーク上で、特定のプラットフォームに依存することなく自立したユーザーが直接相互につながる新たなデジタル経済圏が構築されるため、非中央集権的」と述べている。ガートナーは「Web3.0 (Web3) の数々のイノベーションは、インターネットを新たな領域へと導き、これまでは実現不可能と思われていたアプリケーションを生み出すでしょう」とし、テスラ・スペースX CEOのイーロン・マスクは「現実のものというより、マーケティングのためのバズワードのようだ。誰かWeb3.0を見たことがある?僕は見つけられないよ」と述べている。
多様な定義があり、肯定的な意見も否定的な意見も存在する。歴史的背景と上記の定義を要約すると「ブロックチェーンやスマートコントラクト技術を用いたアプリケーション・サービスと、そのサービスに付随するカウンターカルチャー的なムーブメント」ということができると考える。そもそもWeb3.0は思想的流れと技術的流れに分けることができる。思想的流れとしては歴史を考察した時に述べた中央集権的なWeb2.0への反発であり「中抜きでなくダイレクト」、「中央集権でなく分散化」、「依存ではなくトラストレス」を主要な思想として挙げた。技術的流れとしては、これからの議論で述べるが基本的にはブロックチェーン技術を核としたインターネットのチェーン化による「唯一性」、「永遠性」、「真正性」とスマートコントラクトによる「自動化」である。この2つの流れはDAOやNFT等で相性は良いものの必ずしもイコール関係で結ばれるものではない。例えば、大手金融機関もブロックチェーン技術とスマートコントラクトを使って新たなサービスを立ち上げたり、大手不動産会社が不動産をNFT化できたりする。そのため、この2つは相性が良いものの、イコール関係ではなく、独立して活用することができることがWeb3.0を紐解くポイントの一つだと考える。
Web3.0を実装する基盤技術・概念
このパートでは、Web3.0の核となる技術をまとめる。ユースケースはこの技術をもとに形作られており、この基盤技術の理解は本論文において最も重要な部分の一つである。それぞれに対し、定義、仕組み、強み、弱み、実際の例などを踏まえ検討する。
ブロックチェーン
定義としては、「ネットワークにある端末同士を直接接続し、取引履歴を暗号技術によって過去から1本の鎖のようにつなげる技術」である。誰でも参加できるパブリックチェーンと管理者が存在するプライベートチェーンが存在する。もともとはビットコインを実現する技術として、サトシ・ナカモトという人物によって作られたが、彼は現在も正体不明である。
仕組みを理解する上で、まずWeb3.0全体の構造を捉えると、インフラストラクチャレイヤー、ブロックチェーン&スマートコントラクトレイヤー、アプリケーションレイヤーの3つに分けることができる。インフラレイヤーはデータベースやクラウドのことを指していて、Web3.0ではそれを実現する同期された数千ものパソコンである。ブロックチェーン部分では、ユーザーを含むコンピューターがチェーンのように繋がり(P2Pネットワーク)、取引履歴が一本の鎖のような形なる。ブロックチェーンをつなぐためには鍵が必要であり、そのための技術をマイニングと言う。鎖状になった上で、複数のコンピューターが情報を持ち、同期が図られる。ブロックチェーンを構成する各々のブロックには、直前のブロックの内容を表す「ハッシュ値」と呼ばれるデータが書き込まれている。
強みとしては、ハッシュ値の存在によりデータの破壊、改善が困難であり取引の公明な記録を残すことが可能(ハッシュ値は一つ前のブロックをもとに作られるため、改ざんするためにはすべてのデータを変更する必要があり極めて困難である)なことが挙げられる。普通のソフトでも記録を残すことは可能ではあるが、意図的にデータを隠すことも可能である。しかしブロックチェーン上だと「強制的に」取引が記録され公開されるので、透明性が担保される(唯一性と真正性)。また、常に全コンピューターによってデータの保持、動機が図られているため、障害によって停止する可能性が低い。更に、インフラが保たれている前提ではあるが、永久的に記録を残すことが可能で、スマートコントラクトと組み合わせることによって、半永久的に稼働するシステムをつくることが可能になる(永遠性)。
弱みとしては、集中管理システムに比べてガバナンスが複雑化しやすいこと、オープンで管理者が不在のため第三者に攻撃されるリスクはある(しかし防御はしやすい)こと、取引データの巨大化処理速度が遅くなりやすいことが挙げられる(スケーラビリティ問題)。
スマートコントラクト
定義としては、あらかじめ設定されたルールに従って人の手を介さず、ブロックチェーン上のトランザクションやその他の情報をトリガーとして実行されるプログラム。仕組みとしても、契約内容とその実行条件をあらかじめプログラミングしておくというシンプルなものである。
強みとしては、スマートコントラクトはブロックチェーン上にあるため契約内容が改ざんされないことや、契約履行の自動化により人件費や取引期間の短縮化、プログラムのソースコードが公開されているため透明性が高いことが挙げられる。弱みとしては、あとからの変更が不可能なことが挙げられる。
実際の例としては、後述するDeFi、GameFiなどのブロックチェーン技術分散型アプリケーション、DAppsやNFTなどである。現状はイーサリアム上で作られることがほとんどである。
い
コンポーザビリティ
Web3.0の思想的背景から、基本的にはオープンソースにすべきであり、透明性高く他のものに転用可能にすべきという考え方。Web3.0プロジェクトにおいては、そのものがいわばコンポーネント(部品)的なものであって、他のものにも転用できる仕様が好ましいとされている。実際、Web3.0アプリケーション(DAPPs)やインフラのほとんどがオープンソースでコードが公開されているそのため、新規開発の際、既存アプリのソースコードを組み合わせることができ、開発速度を飛躍的上昇させることができる
ファットプロトコル理論
定義としては、すべての取引をブロックチェーン上で行うという思想から、ブロックチェーン上の取引やプロトコルが重要であり、アプリケーションの重要性は薄れていくという考え方。具体的に今回指しているプロトコルとは、HTTPやFTPなどのインターネットのインフラのことで、アプリケーションとはユーザーにサービスを提供するインターフェースのことで、GoogleやAmazonなどが例として挙げられる。これまではアプリケーションレイヤーにお金が集まることが多く、プロトコルはあくまでの基盤としては働きお金を集める力はなかった。
このようなことが起こった背景としてはブロックチェーン技術と特にトークンの存在が大きい。これまで公共性の高くマネタイズの難しいプロジェクトはオープンソースで細々と開発されるのが通例であった。しかし、オープンソースとトークンが掛け合わされると、プロジェクトの貢献者へトークンで対価を支払えるようになる。その後、もし開発したプロジェクトが普及し、多くの人々に使われるようになれば、トークンの価値が増大することになる。そして、トークンの値上がり益を得ようと、新しい資金やアイデアなどがプロジェクト内に供給され、巨大な経済圏を形成されていくため、これまでマネタイズが難しかったプロトコルレイヤーにもお金が集まるようになり、更に利便性が高まると考えられる。
強みとしては、他のプラットフォームに所有物を移転できることが挙げられる。具体的にはどこかのゲームで手に入れたトークンやあるSNSで作り上げたネットワーク、などは他のアプリケーションに持ち込めない場合がほとんどである。しかしWeb3.0が実現された世界では自分が持っているトークンはすべてブロックチェーン上に記憶される。そのためアプリケーションの縛り無くどこへでも所有物を持ち運ぶことができる。
基盤技術を用いたユースケース
このパートでは、前述したブロックチェーン技術とスマートコントラクト、また民主化や平等化の思想の元、作られているアプリケーションについて述べる。サービスはほとんどが発展途上であり、弱みはあるが、有効活用により大きなインパクトを持ちうる。
NFT
定義としては、Non-Fungible Tokenの略、つまり代替不可能なトークンのことで、ブロックチェーン上で唯一無二性が担保されるためその価値が担保されているトークンのことである。具体例を出せば、私が持っている日本1円と日本1円は交換できる。言い換えればファンジブルなのである。具体的なファンジブルトークンとしては、ステーブルコイン、ペイメントトークン、ガバナンストークンが挙げられる。しかし有名な画家が書いたアートやマニアックなゲーム、スポース選手やスター歌手のサインなどは交換しがたい価値がある。言い換えればノンファンジブルである。このようなノンファンジルなトークンにブロックチェーン上で保証書を付けることで唯一性を証明するというものである。
仕組みとしては、トークンやデータをメタデータにし(近年はJSON形式が多い)IPFSというP2Pネットワークでのストレージサービスに登録。更にメタデータに関する情報(トークンID、所有者情報等)をブロックチェーン上に登録することで、所有者情報と実際の画像がリンクされ唯一性が証明されるとう形である。
強みとしては、ブロックチェーン上にデータが有ることによって唯一性や、データをNFT化することで取引が可能になること(相互運用性)、付加情報をつけることができることが挙げられる(プログラマビリティ)。プログラマビリティについて具体的に言えば、NFTに取引の10%をクリエイターに還元するという付加情報を付けておけば、がクリエイターの手のもとを離れて、大幅に価値が上がった後の恩恵をクリエイターが受けることができるようになる。
弱みとしては、NFT化するものを無許諾で行ってしまうことや、所有権・著作権に関する法整備が整っていないこと、ホワイトリストとコミュニティ問題が挙げられる。ホワイトリストとコミュニティ問題については、NFTのコミュニティは自主的に作られる場合もあるが基本的は発行元がDiscord等で作る人為的なコミュニティであり、そこでは、Discordに早く人を集め、早くからそこに参加した人だけが安くNFTを手に入れられる権利、いわゆるホワイトリストを手にすることができる。このホワイトリストは2次流通市場に回ることもあり本来の価値の何十倍者値段をつけていることがある。しかし、この値段は人々の今よりも高くなるかもしれないという期待によって釣り上がっているもので非常に危うく、先行者が得する仕組みになっている。
実際の例としては、技術的にはなんでもNFT化することができ、近年はアートやコレクションなどのマニアックで希少価値のあるデータはNFTになりやすい。またデジタル空間上でのスキンやバーチャルアイテム芸術作品、バーチャルな土地も購入先候補として挙げることができる。現状の市場レイヤーとしては2つにわけることができ、販売レイヤーと取引レイヤーに分けることができる。販売レイヤーとしては、Yuga Labsやクリプトパンクが例としては挙げられ、取引所としてはOpen seaなどが挙げられる。
DAO
定義としては、特定の所有者や管理者が存在せずとも事業やプロジェクトを推進できる組織を指す言葉で、Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)の略である。技術ベースと、思想ベースに分けて特徴を理解する必要がある。技術ベースで言えば既存組織との違いは、スマートコントラクトの有無とインセンティブについてはPJへの貢献度に応じてガバナンストークンを配布することである。参加については、最初はガバナンストークンを購入するだけで参加可能になるので、誰かの許可が必要というわけではない。また、資金調達方法がシンプルであるのも特徴である。このような技術ベースと思想的背景をベースとして、フラットで民主化されたチーム作りや、オープンな意思決定、いつでもどこでも働くことができることという特徴が生まれた。
弱みとしては、大きく2点ある。1点目は、法整備が整っていないことである。DAOはどこかの場所に物理的に存在している訳はなくグローバルに分散して存在している。そのため既存の法人やNPOなどの枠組みに当てはめるのが難しいというのが現状である。米国のワイオミング州ではDAOの法人化を認める法律が成立されたという事例はあるが、個別具体の話であり、グローバルにこの事例を展開できるかと言われれば疑問がのこる。日本においても検討が始めっているが、2022年に調査開始されたとなっているため、明確な法整備にはまだまだ時間がかかると予想される。
2点目は、全体で投票することの非効率性である。DAOは非中央集権化、インターネットの民主化を謳っているため、一定量以上のガバナンストークンを持つ全員が議決権を持つがこれは必ずしも効率的な意思決定の方法とは言えない。既存の企業が全員で投票することをせず、限られた役員や事業企画のみで意思決定をする理由は、ひとえに全従業員が正確な意思決定をすることに長けているわけではないためである。しかしDAOは全員が投票券をもってしまうため、一般社会倫理に照らしておかしな議決がされることもある。また、DAOは基本的には1トークンあたりに1票の議決権を持たせているため、資金を持っているものはお金にものを言わせてDAOの意思決定を歪ませることができる。この1トークンあたり1票の議決権というものは、貢献度が高ければたかいほど多くのトークンが割りてられ、その人はDAOのために誠実に行動する可能性が高いという前提のもと成り立っている。しかし、Chainalysis社が2022年に発行した『State of Web3 Report』というレポートによると、権力の集中が起こっており、DAOで1%未満のメンバーが議決権の90%以上を持っているということが起こっている。これは、投票やDAO参画へのモチベーション低下を招く。実際世界最大級のDAOである、Uniswapにおいても、可決に必要な得票するが足り無い事態が発生した。
実際の例としては、Deep DAOに多数のDAOが登録されている。作成手順としては、命名、ミッションステートメントの作成、コミュニケーションツールの設定、メンバーの募集、ガバナンストークンの発行、プロセスとルールの策定、ツールの導入である。DAOの運営に使用可能なソフトウェアツールも開発されてきており、具体的にはAragon、SnapShot、Coordinateなどである。AragonはDAOの立ち上げや運営支援ツールで、「5分でDAOを立ち上げられる」をコンセプトに資金調達・財政管理・報酬の配分の支援などを行ってくれる。SnapShotは分散型の投票ツールであり、DAO上で一定以上のガバナンストークンを与えられたもので行う決議の可視化を行っている。可視化される内容は結果だけでなく、提案内容からその投票結果の時系列データある。CoordinateはPJにおける貢献度合いを可視化してくれるツールである。リアル世界で例えるなら360度評価方式を採用しており、各人にトークンが一定数配られ、その中で貢献度が高いと思うメンバーにトークンが割り当てられる。
DAOの種類としては多くの種類があり、ここではいくつかを取り上げる。プロトコルDAOは、DEXやDefiを中心にプロトコルそのものを管理したり、改良したりするためのDAOで、Maker DAO、Uniswap DAO、Yearn DAO、Curve DAOなどが存在する。投資DAOは、ベンチャーDAO、スタートアップやスポーツチームを買収したりするためのDAOであり、通常のヘッジファンドよりは透明性が高い。MetaCartel、LinksCurtelなどが具体例としては存在する。助成金DAOはコミュニティが資金プールを持っており、コミュニティの投票によって資金の供給先を決定する。GitCoinなどが例として挙げられる。慈善活動DAO;非営利団体が母体となっているDAOのことで、ソーシャルDAOは、共通の関心・価値観をもったメンバーが集まるDAO。FWBなどが例として挙げられる。コレクターDAOは、何かを収集するために組織されたDAOのことで、NFTの収集を目的とすることが多い。Flamingo DAOなどが例として挙げられる。メディアDAOは、コミュニティ手動でコンテンツを制作することを目的としたDAO。バンクレスDAOなどが有名な例として挙げられる。サービスDAOは、会計、アプリケーション開発などプロフェッショナルサービスを提供するために集まったDAOのことである。
DEFi
定義としては、Decentralized Financeの略であり。ブロックチェーン技術、特にスマートコントラクトを用いて、銀行等の中央集権的な管理者を介さずに取引することで、従来の金融サービスはTradFiと言われる。いまはほとんどがイーサリアム上でシステムが動いているため暗号通貨取引所で日本円をイーサに変換した後、Web3.0用のウォレットを作り、イーサをウォレットに入れることになる。そしてそのウォレットが他のNFTやDefiなどのサービスとつながりお金が動いていくことなる。歴史としては、2009年のビットコイン、2013年のイーサリアム登場、2017年のICOブーム、2020年のDeFiブーム、2021年にNFTブームが挙げられる。
強みとしては、仲介業者がいないため人件費やシステム運用費が削減され手数料が低いこと、本人確認などの審査がないため誰でも利用することができる(暗号資産による担保が必要)こと、透明性の高さ、オープンソースであることの他のサービスとの連携の容易さ、24時間365日営業していることが挙げられる。弱みとしては、セキュリティ面、法整備が整っていないこと、貸し倒れリスクが挙げられる。
実際の例としは3点あげる。1点目はDEXだ。暗号通貨の取引所の分散型の方。従来の金融取引と違い、アルゴリズムによって価格が決まることと、直接ウォレットを接続することが大きな違い。主要なプロジェクトの一つとしてUniswapが挙げられ、流動性プールとAMMの観点で魅力的である。対して中央集権型の方をCEXと言い、コインチェック、DMM、GMO、Binance、Coinbaseなどが挙げられる。
2点目は、レンディングサービス。これまで銀行が行ってきた資金の貸付、借入をスマートコントラクトによって実現するもの。銀行の場合は預金の手数料は銀行企業の必要経費に当てられるが、スマートコントラクトによって実現されたレンディングサービスにはその必要がなく、一般に既存の銀行を上回る金利を提供することができる。有名なPJとしてCompoundが挙げられる。
3点目はステーブルコインである。ビットコインを始めとした暗号資産のボラティリティの高さ(例えば、決済手段としてビットコインを使えるようにした飲食店があるして、200ドル相当のビットコインを受け取ったとしても、150ドル相当の価値しか持たなくなる可能性がある)を課題としてステーブル、つまり安定したコインを作ったのがステーブルコインである。具体的には米ドルなどの法定通貨に価格を連動させていて、「1ステーブルコイン≒1USD」のように、設計されている。ステーブルコインを安定させるタイプの違いによって3種類に分けられる。1つ目は法定通貨担保型である。これは米ドルやユーロなどの法定通貨に価格を連動させる仕組みである。具体的な通貨としては、テザーやUSDコイン、バイナンスUSDなどがある。2つ目が暗号資産担保型である。これも文字通り暗号資産を担保に発行されるステーブルコインのことである。これは法定通貨担保型に比べて、透明性は高いものの、ボラティリティの問題が少し残ってしまうという状態がある。有名なものとしてはMaker DAOをベースとしたDaiがある。最後が無担保型である。これは担保を必要としないステーブルコインのことで、コインの供給量を市場の需給に合わせてアルゴリズムで調整することで価値を一定に保っている。やり方としては中央銀行が紙幣発行料をインフレ・デフレに合わせて調節する方法にとても似ており、コインの価格が法定通貨の価値を下回った場合にはステーブルコインの供給量を減らし、価格が上回った場合にはコインの供給量を増やすような方法を取っている。代表例としては、TerraUSDがあるが、大暴落に陥るなどの騒動が起こった。他にも、デリバティブ、リキッドステーキング、イールド、保険等の分野にも応用しやすいだろう。これらは、リスクもあるが中央集権的な仕組み無しで動いている点ではとても画期的である。今後のマスへの到達に向けては、信頼性のさらなる確保、既存システムの相互運用性の工場などが課題になってくるだろう。
GameFi
定義としては、GameとFinanceを組み合わせた造語。DAppsの中で暗号資産用のウォレットが元も多く使用されているのはGameFiであり、もっとも一般普及しているWeb3分野といっても過言ではない。実際、DAppsに関する情報サイトである「Dappradaer」が公開したデータでは2022年時点で過半数がGameFi関連で使用されている。もともとはPlay to winのために行われてきたゲームが稼ぐために行われるようになったことで注目を集めた。歴史的には、パッケージダウンロード型(ファミコン、DS)→サブスクリプション型(Nintendo Swith Online)→Free to Play(いわゆるソーシャルゲーム)と流れてきた。これまでのゲームは、開発費を回収できるかは博打的な要素が強く、重量課金者を生むなどの問題も産んできた。しかし、GameFiでは、プレイするためにはNFTを購入し、ゲーム内で更にNFTやトークンを獲得、それにより、再投資・現金化が可能、取引がブロックチェーン上に記録されるため、他のゲームでも使用可という仕組みがあることで従来の課題を解決している。「稼げる」ということで注目を集めており、遊んで稼げるPlay2Earn、歩いて稼げるMove2Earn、眠って稼げるSleep2Earn、総称したX2Earnなどの造語が作られている。
例としては、Axie Infinityを挙げる。モンスターを育成して戦わせる、対戦型ゲームで、参加する人は、NFT化したモンスターを購入し、ゲームの成績によってSLPというアプリコインを入手可能。またモンスターを配合することによってもSLPを入手することが可能になっている。スカラーシップという制度もあり、NFTを買うお金がない人が支援者からNFTをレンタルし、戦う。報酬の取り分の一部を支援者に送るという精度も出来上がっている。
また、Stepnというウォーキングが金額になるゲームも存在する。参加するにはスニーカー型のNFTの購入が必須で、現実世界で歩いたり、走ったりするとコインが貰える。スニーカーの種類により効率もかわり、そこでマネタイズしている。
弱みとしては、ポイントはアプリコインと呼ばれるゲーム内で使用できる暗号通貨をいくらでも発行できるところで、ゲーム提供者はいくらでもアプリコインを生み出すことができることがある。アプリコインは仮想通貨市場で価値がないと顧客への報酬として成り立たないため、まずはマーケットプレイスの整備や、新規顧客の呼び込みを行う。しかしそれでもうまく行かない場合、運営主が意図的にアプリコインの供給量を調整することができる。
またNFTと同じくポンジ・スキームになっていることもデメリットとして挙げることができる。つまり先行者の利益を後発者の購買で補うような形でシステムが作られている。これはNFTの価格が高く保たれている前提では有効だが、そうでないと大変なことになる。現状はその射幸心によってしかマネタイズできず、結局ガチャやパチンコとおなじマネタイズ方法になっている。そのため他のマネタイズ方法を見つけることで健全なX2earnのゲームとして成り立たせることができるのではないだろうか。
メタバース
定義や歴史しては、言葉の発祥はニール・スティーブンスンが1992年に発表した「スノウ・クラッシュ」という小説で、近未来化したアメリカを舞台に、仮想空間「Metaverse」で生きる人々が描かれている。これはWeb3とは思想的には同一のものだが、技術的にはブロックチェーンやスマートコントラクトを使用していないため別のものである。
普及には3ステップ必要と言われていて、①ゲーム市場の席巻、②ビジネス・教育領域に進出、③ポストスマホになる。フェイスブックはこれまでアップルやグーグルの手の上で転がされていたと言っても過言ではない。しかし自分でコントロールできるメタ事業を作り出した(Web3の本来の思想とは乖離)。マイクロソフトもゲーム会社を買収している。
①体験、②デバイス、③プラットフォーム市場からメタバース市場は成り立っている。①として挙げられるのはゲームやイベントなどである。②としてはVRヘッドマウント、ディスプレイ、ゲーム機などがある。①はさらに分解することができ、アバターや3Dオブジェクトを作成するいわゆる第一次産業、加工する第二次産、ワールドクリエイトをする第3次産業である。しかしWeb3.0とは全くの別物であり、Web3.0はブロックチェーン技術をベースにしたムーブメントやサービスの総称であるのに対して、メタバースはそれとは独立したバーチャル空間である。
強みとしては、解像度とレスポンスからくる没入感、自由にコミュニティを選ぶことができること、もう一人の自分に気づくことができることが挙げられる。弱さとしては、否定的に言えば現実逃避の場であり、学校では勉強もスポーツもできない子供が承認欲求を得るためにメタバース空間上で頑張る、といったことが挙げられる。実際の例としてはフォートナイト、マインクラフト、Chat、VRショッピング、ライブ・イベントがある。
未来
政治
政治におけるWeb3.0の応用可能性は大きく2点挙げられる。1点目は社会実験の舞台としてのメタバースで、メタバースに仮想世界を作り出すことで現実世界では行えないようなドラスティックな社会実験を行うことができる可能性がある。2点目は、政府にとってはトークンという貨幣ではないものがはびこることの反発も考えられる。
社会
大きく2点の流れがあると考える。1点目はバーチャルファーストの時代の到来だ。これまでは当たり前であるが、リアルが主でバーチャルが従の世界観だった。しかし、Web3.0の技術によってバーチャルが主でリアルが主になる可能性を秘めている。しかし、人間はあくまでも身体性をから逃れることはできないと考えるため、身体をあくまで道具と捉えるようになると考える。2点目は可能性としてはリアル世界とバーチャル世界、富裕層と貧困層の格差がさらに進んでしまうことも考えられる。具体的にはリアル世界で贅沢な暮らしをして幸せに暮らせる人はリアル世界で富裕層として暮らすと予想される。しかし、現実世界でうまく歩いていけない人たちがバーチャル世界にのめり込み、富裕層に搾取されていくとう構図が作り出されるという可能性もある。
ビジネス
働き方に関して4点あげる。1点目は、DAOはPJベースで立ち上がるため、パラレルキャリアが可能になることであう。DAOに参加する際には、トークンホールダーとなるだけで雇用関係を結ばないため、同時並行的にDAOに参加することが可能になる。また、コンポーザビリティの思想背景からDAO同士で繋がる可能性も出てくる。更にDAO同士でトークンを交換すれば、お互いに協力して成長しようというモチベーションが生まれることも予想される。
2点目は仕事の内容も場所も時間も自分で決めることができるため、仕事に関する格差を小さくして行くことができる。具体的には妊娠・出産といったイベント、介護などをしなければならない人、心身が不自由で会社に出勤することが難しい人を「自分にできることで貢献すればOK」「いつでも、どれだけ働いても大丈夫」という思想の元、いわゆるフィアットエコノミーでやりたいことがなかった人が、DAOで才能を解き放すことができるようになる可能性がある。
3点目はPJに参加するメンバーにガバナンストークンが発行され、早ければ一年以内にキャピタルゲインが可能になる。このことは現在の投資家、経営陣、従業員、アルバイトといった構造を壊すことができる可能性を持ち、既存の資本主義構造に大きなインパクトを与える可能性がある。
4点目は、ブロックチェーン上でやってきたことが記録されるため、学歴・社歴ではなく何をやったかにより評価される時代になることである。これまでは肩書きが重視されやすい世の中だったが、自分の活動が正当に記録される世界では、自分がどこに所属しているかではなく、何をしてきて何ができるかが重要になる。
実ビジネスへの応用としては、6点あげる。1点目は、アイコン性、特に、アパレルブランドとメタバースの相性が良い。メタバースが発展すればするほどその来ている服(今のソーシャルゲーム界隈やインスタグラムを見れば分かる通り)アイコン性が重要になってくる。そこでブランド価値の高い服を作ることができるアパレルブランドは絶好調だし、そもそもデジタル空間だから廃棄しなくて良いという点でアパレルブランドは次々のメタバース市場に参入することが予想される。
2点目は、メタバース空間上での広告である。リアル空間では出せる広告の場所に限界があり、主にパブリックスペースで出されている。しかしメタバースでは全てがデジタル化されているため、多くの場所に広告を出すことができる可能性がある。
3点目は、ヘルスケア領域で、自分のアバターを作り健康診断や過去の病気の情報などを登録することで病気の予防や改善に役立てることができる。これはリアル世界での手間を省くことができるのはもちろん、データを用いてより精緻な分析をすることができるため、人間の健康のさらなる増強につながる可能性がある。
4点目は、不動産取引への応用可能性である。現状日本の不動産の所有権は登記所の登記簿に記載されている。しかし、閲覧や証書の発行には手間とコストがかかる。また、売買においても第三者の仲介業者を立てて、司法書士とやりとりをしてようやく取引が成立する。しかしスマートコントラクトとブロックチェーンを使えば不動産の所有権の閲覧、交換を安定的かつオープンにできしかも自動で行うことができる。
5点目は、ユーティリティといわれる概念にも応用可能。不動産をNFT化することで、小口取引が可能なる。既存のサービスとしてはREITがあるが、RETAPやREINNNOなどのWeb3プラットフォームも立ち上がってきている。ユースケースとしてはSatoshi Islandがあり、島の所有権をブロックごとに区分けしNFT化。そのことにより市民NFTを獲得でき、政策への投票や働く権利を獲得することができる。また、UniCaskというウイスキー販売に応用した例もあり、ウイスキーのNFTを保持することで、自分の樽を熟成するという体験をすることができたり、サンプルやゲームに参加することができたりする。オープンの時期になれば実際にボトルを区画の文だけ飲むことができる。これは熟成中のウイスキーという限られた人にしかアクセスできなかったものへの参画を可能にしたという点で画期的である。
6点目は、既存のシリコンバレー式のベンチャー企業の成長方式に風穴を開けることができる可能性がある。これまでは、創業者や従業員はストックオプションをもらい、会社をエグジットさせる(具体的にはGAFAMなどに買収してもらう)ことが目的で、利益を求めることが最優先事項だった。しかし、DAOにおいて毎週NFTを発行するなどの仕組みをとれば、エグジットなしで開発者たちに報酬を与えることができるし、そのDAO自体の価値を上げることで得をしようというインセンティブが働くので、利益追求ではなく、社会貢献をし、非中央集権的な仕組みを作った上での、利益の追求をすることができる。これは特に非営利法人と相性がよく、開発者にしっかりとインセンティブと非営利法人の目的が合致し、報酬を払うことができれば、良い関係を築くことができる。近年はソフトウェアが勝負の決め手となることが多く、会社も利益や規模を追求しなくても良くなる。
個人
大きく3点ある。1点目は、NFT技術によってユーザーのアクションがコンテンツになりうるバーチャル世界では、誰もがクリエイターになることができることである。なんでもNFT化できるため個人のなんてことない活動がクリエイター活動になり得る。
2点目はもう一つの世界の誕生である。Web3と共に勃興したメタバースは現実とは別の世界をユーザーに提供することができる。そのため、遊びからお金稼ぎまですべてがメタバース上で行うことができる時代が来ると言われている。また既存の社会では無意識的に自己を規定しているが、オンライン空間では自分の好きなように自分を作ることができ、全く新しい人生を送ることができる可能性がある。
3点目は、産業革命以後のひたすら生産性を追い求めた画一的な社会からの脱却をすることができる。具体的には一つの外見、性格、コミュニティ、経済圏、社会体制に縛られることがなくなり、自分の可能性や個性をのびのびと発揮することができる。また夢を追いかける人を応援するコミュニティが多く作られることが予想される。
文化
DAOを扱ったクリエイターエコノミーの加速が考えられる。現状インターネットの存在や機材が安価に買えることになったことからクリエイターエコノミーが加速している。現状はプラットフォームを介してマネタイズを行う(YouTubeでの配信活動等)が一般的。しかしDAOを活用したクリエイターはファンに金銭的なインセンティブを与えることができる。また、現在のファンコミュニティにも見られるように直接ファンにつながり、コミュニティを築くことが可能になり、これもクリエイターエコノミーを加速させる追い風になる可能性がある。
結論
本レポートは、Web3.0の歴史・現状、未来展望について考察した。結論としては、Web3.0とは「ブロックチェーンやスマートコントラクトをもとにしたサービスやWeb2.0の中央集権へのカウンターとなる思想」のことであり、多くの弱点を抱えているものの、ブロックチェーン技術による分散化や透明性、トークン化の存在は画期的であり、多くのビジネス領域に応用可能になるだろう。だが本レポートはあくまでも机上での考察であり、実
プロジェクトに落とし込むことで更に解像度が高まることを付言する。
参考文献
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